大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)1227号 判決 1963年2月19日

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人宮武太の上告理由二の(1)について。

原判決(一審判決理由を引用)は、留置権の成立のためには留置権が債務者の所有に属する物であることを要するという見解のもとに、上告人(控訴人)立仙政子は被上告人(被控訴人)に対し上告人ら主張の本件土地の売買代金返還請求権を有せず、他に特別の事情の主張立証のない本件においては、右上告人は被上告人に対し本件土地に関し何らの債権をも有しないものといわなければならないから、右上告人は被上告人に対し本件土地につき留置権を主張しえない旨説示して、上告人らの留置権の抗弁を排斥している。

しかし、留置権の成立要件である民法二九五条一項の「他人ノ物」とは、債権者以外の者の所有する物をいい、債務者以外の者の所有する物をも含むと解すべきところ、本件において、上告人立仙政子が昭和二九年五月一八日訴外和田高彦から原判示の本件土地を代金九一万五〇〇〇円で買い受け右代金のうち五七万一八七五円を支払つたが、残代金の支払を怠つたため昭和三〇年一一月頃右売買契約は適法に解除せられたことは、原審の確定した事実である。そうすると、代金不払による売買契約解除の場合には支払いずみ代金をもつて損害賠償金にあてることができる旨の特約がされた等の特段の事情の認められない限り、上告人立仙政子は和田高彦に対し前記支払いずみ代金の返還請求権を有するものであつて、右債権は前記土地に関して生じたものというべきであるから、本件土地を占有する右上告人は右債権について弁済を受けるまで右土地につき留置権を有し、和田から本件土地を買い受けた被上告人に対しても右留置権を主張することができるものといわなければならない。また、原審の確定した事実関係によると、上告人立仙悦子は、同立仙政子と共に本件建物を使用して本件土地を占有してきたことが明らかであるから、上告人立仙悦子は同立仙政子の右留置権を援用することができると解すべきである。

しかるに原判決は、前記特段の事情の有無について判断することなく、上告人らの留置権の抗弁をたやすく排斥しているのであつて、所論のとおり民法二九五条の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽ないし理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見をもつて、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例